桜音の所在

帰りの電車の座席にて-37-桜音
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「帰りの電車の座席にて」の裏側へ

美鹿(みか)のスカートを春の風が少し捲り上げたが、美鹿はそれに動揺することなく桜の雨が降っている校門までの道を歩いていた。
美鹿は桜の雨の降る校門までの道を1人で通るのが大好きだった。友人が居ないわけではない、だけど、この桜の下を通る時だけは、1人で居たかった。此処にきて、桜の雨を体に浴びながら歩いていると、心の中に静寂が訪れるのだ。それがたまらなく心地よかった。
しかし、今日はそこに繊維の切れる音が風に混じり、美鹿の鼓膜を少しだけ叩いた。美鹿がその音のした方向を見ると、1枚だけ花弁の無い桜の花が1つあった。無言でそれを見ている後ろで、水溜りに落ちた桜の花弁の音が、そっと美鹿の鼓膜を叩き、花弁の所在を知らせた。

そして、裏のあちら側は此方